株式会社ジールの新たな展開

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商業活動は停滞し、急速な成長を前提に成り立っている産業(最近ではほとんどの産業がそうである)は不況に陥る。

財サービスにともなうコストは増大し、最終的には経済的需要が減少して、経済全体が長期の不況に見舞われる。 一九二九年の世界大恐慌がリハーサルに思えるほどの深刻な不況をきっかけに、残された石油を奪い合う壮絶な争いが、おそらくは暴力をともなって展開されるだろう。
のちに述べるように、産油量のピークがいつ訪れるかはきわめて重大な問題である。 アメリカ政府などの楽観派は、産油量のピークは早くても二O三五年ごろであり、代替燃料を探す時間はたっぷりあると考えている。
これに対し、悲観派、つまり地質学者や産業評論家、驚くほど多数の石油会社幹部や政府高官らによると、産油量のピークははるかに早く、二OO五年にも訪れる可能性があるという。 少数派ではあるが、「すでにピークを過ぎているからこそ、シェルやBP(ブリティッシュ・ベトロリアム)などの石油会社は、未開発の油田を必死に探して、生産分を埋め合わせる石油を確保しようといるのだ」と強く主張する人々もいる。
たしかに、これほどピークの予想にばらつきがあったら、ディーゼルの買いだめや僻地への避難、石油会社の株への投資などのタイミングを判断するのには役立たない。 しかし、「そろそろもっと大きいSUVを買おう」などとは間違っても考えないように、つぎのことは知っておいたほうがよい。
「重要な石油」、つまり十一の固からなるOPECという石油カルテルに支配されていない石油の生産量が、二O一五年から二O年のあいだにピークを迎える可能性が高いことは、石油楽観論者ですら(たいてい非公式にではあるが)認めている。 OPEC非加盟国の石油が「重要な石油」といわれるのは、その生産量がピークを過ぎれば、自由市場経済の国々は、サウジアラビアやベネズエラ、イランなどの国が支配する石油への依存度を年々高めなければならなくなるからだ。
サウジアラビアなどの国が、石油価格の設定にあたって欧米諸国の利益の最大化をいつも考慮してくれるとは考えられない。 ここでふたたび問題になるのが、エネルギー体制の変化がスムーズに進むか、それとも唐突に起きるかである。
じつのところ、OPEC非加盟国の産油量のピークが正確に把握できたとしても、今の石油インフラの規模や、平均的な消費者のエネルギーに対する無頓着ぶりを考えれば、たいした備えはできないはずである。 しかし、欧米諸国が自動車の燃費基準を引き上げるなど、石油需要を減少させる策や、少なくともその増加率を抑える策を実行すれば、産油量のピークの影響は大幅に弱まり、石油以外の燃料を活用するメリットが数多く実現するだろう。
いっぽう、エネルギーが現在の勢いで消費され続けた場合(将来を懸念するエネルギー経済学者らはこれを「現状が維持された場合」と呼んでいる)、二O一五年までに石油需要が急増し、産油量のピークが訪れて、惨事が起きる可能性がある。 大きな混乱、すなわちサウジアラビアでの内戦や、気候関連の大災害が起きて数千人が犠牲になり、石油などの炭化水素燃料の消費量を急いで削減しなければならなくなるなどの事態が生じた場合も、恐ろしい結末が訪れるだろう。

したがって、将来を真剣に心配している人々にとっての本当の問題は、新しいエネルギー体制に移行するかどうかではなく、その移行が平和的で整然としたものになるか、それとも、準備にとりかかるのが遅すぎたために無秩序で暴力的なものになるかである。 日本とドイツの省エネ本書を書くにあたって、私はエネルギーの過去と現在、エネルギーの技術や産業、エネルギー経済の主要プレーヤーなど、エネルギー経済のさまざまな側面に注目した。
また、サウジアラビアやロシアなどの主要なエネルギー生産国について調査した。 世界の石油の大半を支配しているこれらの国々は、石油後の経済体制への移行にあたって重要な役割を果たすことになる。
さらに、中国とインドについても詳しく分杭した。 この両国は、今はエネルギー不足に悩んでいるものの、膨大な人口と経済成長を背景に、二十一世紀のエネルギー経済でもっとも重要なプレーヤーに成長するだろう。
いっぽう、石油を自給できない日本やドイツはエネルギー効率の改善策をとり、とづく生活様式を、歓迎とはいかないまでも容認できる文化を育ててきた。 とはいえ、本書でおもに検討するのはやはりアメリカである。
新しいエネルギー経済の形成は国際的な問題ではあるが、新しい経済を発展させるにあたってアメリカほど大きな役割を果たす国はほかにない。 アメリカは世界史上もっともエネルギーを浪費している国である。
アメリカの人口は世界人口の五パーセントにも満たないが、エネルギー消費量は世界の総消費量の二五パーセントを占めている。 この不均衡を生んでいる原因のひとつは、アメリカ経済の規模が世界最大であり、したがってエネルギー消費量も多いことだが、アメリカ式の生活のエネルギー集約度がヨーロッパ諸国や日本の二倍、世界平均の約十倍に及んでいるのも事実である。
このため、アメリカはエネルギー経済でもっとも重要なプレーヤーになっている。 アメリカがサウジアラビアやロシアなどの主要エネルギー生産国にとって欠かせない顧客であるのは、膨大なエネルギー需要を生み出しているからだ。
世界エネルギー市場は、大量のエネルギー源を輸入しているアメリカの動向に振り回される。 例年より寒い冬や交通量の増大、税法の改正などによってアメリカのエネルギー経済がわずかでも変化すれば、世界エネルギー市場は混乱しかねない。
アメリカの力の源は世界経済での支配的地位であり、その地位をおもに支えているのが石油などの化石燃料である。 このため、アメリカは世界のエネルギー・インフラをあらゆる脅威から守るために、経済、外交、軍事の各面で可能なかぎりの手段をつくすことが、自国の唯一の選択肢だと考えている。
強力な国であり、経済形成にあたって圧倒的な影響力をもっている。 それは今後も変わらないだろう。

次世代エネルギー体制の構築に必要な経済力や専門技術、国際的影響力をもっている国はアメリカしかない。 アメリカの政府や国民が新しいエネルギー体制の導入を決め、二十年以内にそれを実行すれば、新体制が実現するだけでなく、他の国々もそれに続かざるを得なくなるだろう。
しかし、アメリカの政策立案者はまったく身動きがとれない状況にある。 エネルギー消費のパターンを変えれば、アメリカの経済上・地政学上の立場が脅かされ、それが何千万人もの有権者の怒りにつながることを恐れているのだ。
ヨーロッパ諸国が二酸化炭素の排出規制へ向けて、小規模ながらも重要な政策を実行しているのに対し(皮肉なことにこれらの政策はアメリカの公害対策の法律をモデルにしている)、アメリカは代替燃料の開発やエネルギー効率の改善、市場原理を利用した炭素削減政策などについては芝居がかったポーズをみせているだけである。 この結果、アメリカはエネルギー超大国であるにもかかわらず、太陽エネルギーや風力などのエネルギー技術分野で保持していた圧倒的優位を、ヨーロッパ諸国や日本などの競争相手に奪われている。

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